;マガジンハウス;(借覧);四六判;縦組;上製;369+vii頁;;ISBN978-4-8387-1768-2;
何となく心がけわしくなつて、人のことを悪く思ひたくなつて悲しい。もう書くのはよさう。ああ、私も妻がほしい、子供もほしい。人間なみの幸福をうけたい。私はしたい方だいがしたいのではない。ただ人間なみのことがしたいのだ。私はどんな不幸な人間で、それだけのことも出来ないのだらうか。さびしい。あなたは今ごろ谷崎とたのしさうに何か話してゐることだらう(pp.202-203、佐藤春夫、千代宛書簡)。
まだ物象の形をとどめ/きっかりと石に刻まれた/神聖文字{ヒエログリフ}から/少し略された祭司文字{ヒエラティク}へ/もっと書きやすい民衆文字{デモティク}へ/五千年もたてば坐り疲れて/文字だってもじもじと身をよじり/膝を崩したりもするのだ(p.211、多田智満子「刻」)
ところでこの「新書」といふ命名について、諏訪正さんの説がある。あれは「新劇」といふ言葉の連想から生れたと見るのだ。これはすごい指摘だ。当時、新劇は何とかして時流に逆らはうとしてがんばつてゐた。その抵抗の姿勢を長田幹雄が心のどこかで意識してゐなかつたはずはないし、また、その語幹は岩波茂雄や顧問格の三木清も共有するものだつたにちがひない(pp.347-348)。
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