なんか盲者を演じるのをみるのつてもつといやな感じかなあ、と思つてゐたのだけど、意外にさうでもなかつた。マイコのうつくしい面ざしをみてるだけでも――思へば徳市にはそれは不可視なのだなあ――見料分はあった(徳市をよんでおいて、はぐらかそうとして、道で気づかれるシーンにはちよつと胸がときめいた)。加瀬亮は全然加瀬亮だと思はなかつた。すごいなあ。
「グーグーだって猫である」の前売りがまう出てた(買はなかつたけど)。早いな。
書を讀むは極めて好きことなり。されど書を讀むの法をゆるがせにして書を讀むは極めて危きことなり。
書卷を手にして佔筆を事とすれば、讀書の能事了れりと考ふるが如きは、最も無意義の讀書法なり。
如何なる種類の書なるか、如何なる人の著述せる書なるか、如何なる人の編纂せる書なるか、これらの點を都て顧みること無くして妄に讀むが如きは、必ずしも好き結果をのみ呈すべきならず。世には惡を勸むるといふ書も無けれど、たま〳〵矯激の説を載せたる書の其弊害甚だ多きものもあるなり。また固陋謬迷の識見を抱ける人の著述にして、其偏頗の説の後進を過誤に陷らしむべきものもあるなり。また粗雜孟浪の編纂にかゝる書の空しく人を勞せしむるのみなるものもあるなり。以上の如き良からぬ書を讀むは、讀まざるに若かざる塲合多し。
偏僻の嗜好を有せざる老成の人の教によりて我が讀むべき書を知る事は、最も大切なる事なり。縱ひ學深しと云はるゝ人なりとも其人偏僻の嗜好を有せる人ならば、其人の言にのみ憑るべからず。須らく他の中正の趣味を有せる人の言をきゝて考ふべきなり。
問ひ尋ぬべき先輩無き時は、書籍解題の類を購ひ得て、凡そ先づ我が讀まんと欲する類の書に、如何なる名の書の存するか、如何なる體裁性質の書のあるかを知りて、さて其後に審かなる判斷により、讀むべき書を擇び定むべし。解題を得ずんば目録をなりとも得て覽るべし。
書を讀むは猶文を作るが如し。速なる人あり、遲き人あり。各其性の然らしむるといふべし。速きが必ずしも勝れたるにあらず、また遲きが必ずしも勝れたるにあらず。人或は、書を讀むは叮嚀に、いと遲くすべしなどと説くものあれど、遲速は人〻の習ひにある事なれば、強ひたりとも益あらんや否や覺束なし。また或は、書を讀むは幾度も繰返し繰返し讀むべし、と説くものあり。これも一概には定めて云ひがたし。速きもよし遲きもよし、要はたゞ散亂心をもつて書を讀まず、熱心をもつて讀むべきのみ。
書を讀むに二の惡癖あり。一は多きを貪るの癖なり。此癖ある人は、鼠の物を噛むが如く、甲の書をも二三枚讀み乙の書をも四五枚閲し丙の書をも一二枚窺ひ、畢竟書目をのみ知るに止まりて何等の要領をも得ること無く終るものなり。
他の一の癖は、蟎といふ蟲の一處に咬みつけるが如く、書中の一部に拘泥して空しく字句の詮議に過分の心を勞し、句讀訓詁を讀書の目的の如くに考へ誤り、一日二日三日と月日を經て猶一葉二葉を讀み得ず、一處に滯りて終に一部の書の意は知る無くして止むの類なり。
蠶の桑の葉を食ふが如く順序だてゝ漸〻精密に咀嚼し行くを讀書の一良法とす。
また書を讀むに當つて、多少解し難きところあるに關らず、先づ一讀過し、次でまた一讀過し、次でまた〳〵讀過し、また次でまた〳〵讀過し、是の如く數十囘讀過して、其間おのづから圓悟融解して後已む。これもまた讀書の一良法なり。但し此法は才高からざるものの爲し難きところとす。
書を讀むものは、くれ〴〵も讀書の法に就て熟慮せざるべからず。今たゞ其大概を擧説するのみ。猶各人が自得の工夫に待つあるや論無きなり。
PingURL :