;柏書房;2,200円(借覧);四六判;縦組;上製;229頁;;ISBN978-4-7601-3036-8;
右に紹介したのは、『今昔物語集』という説話集によって伝えられた事件であり、したがって、これが王朝時代に現実に起きた出来事であるかどうかは、保証の限りではない。が、右の「日向守□□□□の書生を殺す語」という話に濃厚な現実味が感じられるのは、その主人公である悪徳受領の氏名が完全に伏せられているからである。日向守某が私利私欲のためにまったく非のない書生の生命を奪ったというのが、正真正銘の事実であったとすれば、やはり『今昔物語集』の編者としては、「日向守□□□□」の氏名を明かすわけにはいかなかったにちがいない。
また、右の説話においては、気の毒な書生の氏名も明らかにされていないが、これもまた、『今昔物語集』の編者が日向守某の立場に配慮した結果であろう。貴族社会の一員であったと考えられる『今昔物語集』の編者は、基本的に、「日向守□□□□」の悪行を後世に語り伝えたいと思っていても、それによって日向守某や彼の縁者たちの面子を潰すようなことはしたくなかったのではないだろうか。
別に、古典文学の「史料」を引用するときは、何本によったか明記するのがお約束
みたいなことは(何本によつたかによつて問題が生じないのであれば)、だうでもよいと思ふのだけど、これは今昔の欠文にかんする一般的な理解、つまりむしろ依拠資料にはなかつた人名等をなるべくあきらかにしようとしてゐたあらはれと見るのとはちがひすぎるなあ。
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