Article
三十六 齷齪
の音轉訛して「アクセク」となりたる者と考ふるは、宛字の中にても無理のなき方なれど、固有語の形容を言ふに、「アツクリ」「ワク/\」「セク/\」などの例多きを見れば、字音説は信ずべからず。「阿房」「阿呆」「安本丹」の類も同じく愚癡を形容する固有語なり。
三十七 淺間し
の「間」の字の假惜なるは、「淺猿」「淺増」など書くにても之を知るべきことなるが、更に考ふるに「淺」の字も義には當らざるが如し。さるは「アサマシ」は「淺シ」を語原とせず、又「淺ム」といふ動詞よりもあらで、「冷笑」などの「アザム」といふ動詞よりシク活形容詞に轉じ、其のサを清みたる者と解するが至當なればなり。「アザム」の語原もし「淺ム」に在りとせば、「淺」の字義に叶へることゝなれど、今は「アサム」といふ動詞あるにあらざれば、「アサマシ」は「アザム」より出でて、「淺」とは直接に関係せざる者と定めざるべからず。
三十八 一天張
一向なるをいひ、一點張とも書ける、此の「天」「點」の義解し難し。此の語の賭博より出でたること明なる上は「一手張」の撥音便なるべきこと推測するに難からず。(「デヾ虫」を「デンデ虫」といふ)
三十九 愛し、糸惜し
「糸惜シ」は平安朝より有る字面なるが、「最惜シ」の義にはならで假名違イトホシ」の義なり。「厭フ」の形容詞となれる「厭ハシ」の轉語にて、(「痛ハシ」の義にはあらじ)人の幸よからぬを厭ひ、又人の上に好からぬ事の有らんとするを兼ねて厭はしく思ふ我が心の状態にて、(「氣ノ毒」に似たる點あり)やがて人に同情することの切なる意をも愛する意をも表すなり。俗に之を訛りて「イトシ」ともいふに、「愛シ」と書くは近頃の人の強ひて宛てたるもの、固より通用すべくはあらず。小兒を「イト」といふは形容詞の語根を名詞にしたるもの、「甚」「尤」の義の「イト」といふ副詞と共に、名詞の「糸」を宛つるは寧罪なしとやいふべき。
四十 榮西
建仁寺の工事に榮西が己の名を懸聲にして呼ばしめしより起るといふは、例の牽強なり。「エイヤサ」とも「エンヤサ」とも「エンサカホイ」とも、「ヨイヤサ」とも「エツサクサ」とも「ヨイシヨ」とも色々に言ふ、皆自然の固有の聲なり。(此の類以下擧げず)
四十一 鷹揚、鷹、大手
大風なることを大樣とも言ふを、鷹揚と書くは、工夫し得たりとも謂ふべし。されど揚は悠揚、揚々の揚にてよけれど、鷹は畢竟附會に過ぎず。凡國語の熟語は音訓相雜る重箱湯桶の類を正例とせざれど、「樣」の如きは音ながら十分に國訛したる語にて、訓と同資格を有して「大」などの訓語と相熟するなり。次に應答の聲の「オウ」を「應」と書くも甚いはれなし。「應」は動詞にて應聲にあらず。應聲には支那に「唉」といふ字あり、字彙に之を「慢〈ニ》譍聲」と釋したれば、此の字を我が應聲「アイ」に宛てん方はやゝ恕すべし。序に「ノウ」といふ感聲に「喃」を宛つるも非なり。喃は「ナン」「ナウ」なるが、我が「ノウ」は本來「ノウ」にして「ナウ」の合呼にて「ノウ」となれるにはあらず。次に「大手」は「追手」とも書く、語原定かならざれば、假定と共に孰れを正字とも定めがたし。將棊の「王手」といふも此の大手追手の轉用なるべきか。王將に迫る手とやうに解するも如何しき上に、將棊の王將は玉將の誤なりといへば、旁三字を合せて疑ひさし置くべきか。
西部邁;1979/6;蜃気楼の中へ――遅ればせのアメリカ体験;
;日本評論社;1,300円(借覧);四六判;縦組;上製;277頁;;;
なかなか中公文庫版をみつけられないので。
こいけ・せーじ(小池清治)/かわはら・しゅーいち(河原修一);2005/3;語彙探究法;
シリーズ〈日本語探究法〉4;朝倉書店;2,800円(借覧);A5判;横組;並製;vi+180頁;;ISBN4-254-51504-9;
- 「はじめに」で、本来集合体の「兵隊」が1人の「兵士」を意味することがあるやうに、語彙が単語を意味することもあるといつてゐるのはさうだけれど、術語なんだから定義からすればをかしいのだとはつきり言へばいいのに、と思つた。
- その「単語」を
lexicon-item
なのであると書いてゐるけど(p.2)、さうすると本書でいふ語彙はvocabularyではなくてlexiconなのかなあ。
- 巻末のシリーズ紹介を見ると、「文体探究法」も小池先生(他2名)が書くことになつちやつてるなあ。大活躍だ。それで、小林千草「文章・文体から入る日本語学―やさしく、深く、体験する試み―」は武蔵野書院から出たのかしら。
せんだ・みのる(千田稔);2005/1;伊勢神宮―東アジアのアマテラス;
中公新書1779;中央公論新社;740円(借覧);新書判;縦組;並製;221頁;;ISBN4-12-101779-X;
なかはら・あや(中原アヤ);2005/7;ラブ★コン(11);
マーガレットコミックス;集英社;390円(1割引);新書判;縦組;並製;174頁;;ISBN4-08-847877-0;
けふの買物
- sabra 014 2005 25th August
- 小学館
- 哲学思考トレーニング
- 伊勢田哲治・ちくま新書
Trackback
PingURL :
Generated by lily 0.1.5
Powered by ruby 1.8.5
snob@s1.xrea.com