をカスガヒに宛つるは、漢字に無きことなれば、和字なりと謂ふべけれど、此また訛成の字なり。カスガヒといふは、今は兩端の曲れる一種のつかみ釘に言へど、其の本は懸金の如き一種の鎖鏁なり。皇太神宮儀式帳に、「戸具、鎰一勾、鎹六勾、雉立二枚、引手二勾、徑四枚、戸坏四枚、蟹目釘十二隻」と見え、延喜の木工式に鐵工の功程を記せる處に、「擧鎹〈莖三寸環九寸〉云々」「鎹舌〈長八寸廣九寸〉云々」とし打合釘・呉釘・平釘・丸頭釘などゝ並べ出し、和名抄に門戸具の部に「鎹、功程式云擧鎹〈阿介賀須加比、今/案鎹字本文未詳〉と記せる、箋註に、此〈の〉字を皇國所製の會意の字ならんといひ、「按鎹施㆓之戸内㆒所㆔以持㆓關木㆒者、擧鎹亦鎹之一種、蓋有㆘戸内下方施㆓竪關㆒閾上作㆑
然るに、此の鎹の形と用法との類似せる爲なるべし、何時の程よりか今のカスガヒ釘を稱することとなり、元祿九年刊の和字通例書に「俗用㆓
㆒」とあり。
は系に繋・繼の義あるより造れる此の間の會意字なるべし。新撰字鏡に「鎖・鏁」を
を銯と作るは、減畫の書か、物を糸して縫ひ繋ぐ義にとりて自然に訛れるか。銯の字出で來てより、糸と京と行草體して字形の相混ずるより更に訛りて鍄といふ字を成せるなるべし。カスガヒに懸金なると釘なるとの兩義ある中に、今の釘の義なるに鎹
銯鍄の四字あること、文字の變遷の珍しき例といふべし。
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