the view from nowhere : 2005-07-10 (Sun)

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三矢重松「宛字」(2)

第一 訛字

一 宛

此の字を「アテ」に用うるは王朝の頃よりありしにや、古書にも多く見えたり。今「アテ字」といふ語を「充字」「當字」など記さんも通ぜざるにはあるまじきも、「當字」は「アタリ字」とも讀むべく、「充字」は字をミタすやうにも見えて、「宛字」と書くことの誤讀なきに如かざる心地せらる。抑國字のアテ・アクといふには種々の漢字の當るがある中に、此のアテ字といふ塲合には「猜」「擬」などの意義もあれど、「猜」や「擬」を「アテ」と訓ずる用例あるにあらざれば其等には尚通じ難し。されど「宛」の字「アツル」義なき上は、此の字を用うるも心苦しき廉なきにあらず。

こゝに我が通用文字の筆畫の沿革を案ずるに、畫の繁なるは之を減じ、簡なるは之を増し、或は多少の變更を行ふこと甚自由なりし形跡あり。本誌には活字の都合にて其の二三をも紹介すること能はざれど、唯その一例を擧げん。伊奘冉命の「冉」の字、今は「冊」に作り、伊奘諾命と並べては「サツ二尊」などとも讀むことなるが、「冊」の字を「ナミ」と讀むべき筋は如何にしても見出されず。古書には之を「〓{冊+一}」及種々の形に記せる、皆「冉」の字の變形にして、「冉」は「タン」「ダン」「ナン」の音、其の撥音は「ムバネ」なるより「ナミ」の假借に用ゐられたる者なること、今は學者の定説なり。かくて「アテ」の「宛」は「充」の字の訛變なるなり。充の下部を宛の下部に作ることを第一着とし、次に充の上部の亠を宀冠に變じて、さて「充」は「宛」となり果てたるもの、其の中間の形は「〓{亠/宛-宀}」即「死」の字の上に一點を加へたる者なりしなり。かく言はゞ人或は言はん、『アテの字果して「充」の訛變ならば、何を苦みてさる訛字を用ゐん、「アテ字」「アテ名」「充行アテオコナフ」とやうに正字にして差支なきにあらずや』と。然り、然れども今人が「宛字」其の他の語に於いて「アテ」といふ意義を感得する上より言へば、なほ「充」の字にては不足を覺え、「宛」の字にして始めて落ちつきたる心地するをば如何にせん。此は同語同字より意義及字形の異なる者を分出せる例と見ば、學術上にも許容せらるゝ價値あるべく、又通用に於いても便利なる文字と認むべきにあらずや。

「宛」の字又「ヅツ」といふ接尾語に宛つることあり。此は事柄をそれ〴〵一々に宛つる意味より轉用したるものなるが、接尾語助辭などに強ひて漢字を宛つることは過去の陋習にして且今はあまり行はれざることなれば、「ヅツ」は假名を用ゐて書くを善しとすべし。


「宛」字については近年だと乾善彦先生に論があつた筈(だけど内容をよく覚えてない)。2つ目の画像でしめした字が、「死」の字の上に一點を加へたる者になつてないのが御愛嬌だなあ。

スティーブン・ピンカー[著]・やました・あつこ(山下篤子)[訳];2002=2004/8;人間の本性を考える[上] 心は「空白の石版」か;

NHKブックス[1010];日本放送出版協会;1,120円(借覧);B6判;縦組;並製;261+40頁;;ISBN4-14-091010-0;[原題]Steven Pinker, The Blank Slate

かしまだ・まき(鹿島田真希);2000/3;レギオンの花嫁;

;河出書房新社;1,200円(借覧);四六判;縦組;上製;122頁;;ISBN4-309-01338-4;

異言。(同い年かあ。)

かしまだ・まき(鹿島田真希);2003/5;一人の哀しみは世界の終わりに匹敵する;

;河出書房新社;1,400円(借覧);四六判;縦組;上製;150頁;;ISBN4-309-01549-2;

短篇集。ずつとむかしに山本周五郎の「栄花物語」をよんだときに、田沼時代のはなしなのに現代の経済用語が無造作につかはれてゐるのに(だから駄目といふのではまるでなくて)非常に不思議な感覚を味つた記憶があるのだけれど、現代日本の女子校に聖書のエピソードが(ややパロディぽく)投入される本書にもくらくらくる(三島賞受賞をうけての「新潮」誌での笙野頼子との対談によると本書の著者はロシア正教徒だといふことだつたと思ふ)。表題作はちよつと毛色がちがふ感じ。

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森 洋介
「宛字」飜刻中「それ%\」は濁點附きくの字點かとお察ししますが、
&#12340:〵(&#12340:〵)
を縱書き用フォント(フォント名の頭に@つき)にて表示、ではやはり御面倒ですかね。
猪川
たしかに符号化されてゐる記号を別に勝手なルールで代用するのは変ですね。変更しました。ただフォント指定はちよつと筋がちがふやうに思ひましたのでしませんでした。(「〱」「〲」のはうがいいのかも。)
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