詠題掌編

冥土メイド

一日中いや一年中一と度びとて陽は差さぬ部屋だのに何故か畳は皆一面に酷く日に焼けて代赭色に成つてゐる。その癖、物凄い潤ひの部屋なのでその畳等は好く水気を含んでぶよぶよとして蹈むとじゆうと汁が出て、固より白くはない足袋が胃液の色に染まる。こゝは女中部屋だ。私を含めて六人の女が四畳半の部屋に鮨詰になつて雑魚寝する。蒲団抔と気の利いたものは有りはしない。一番新入りの私が、唯一の出入口の唐紙の脇で寐る。主人(あるじ)は疾うに還暦を過ぎた老耄で、此の家には主人と、私を含めて六人の女中がゐる丈だ。私の他の女中たちは皆主人相応に歳を喰つてゐて、どうせ仕事も無いので昼夜此の部屋に閉篭つてゐる。隅に何時も坐りこんでゐる大婆なぞはもう皺のかたまりにしか見えなくて、時折ひゆうひゆうと微かな音が立つので辛つと(やつと)息をしてゐるのが分るぐらゐだ。主人は金もない癖に守銭奴なので、私たちに陽が落ちたら直ぐ寝ろと云ふ。燭の用意はあるが私が此の家に這入つてから一度だつて火の點つたのを見た事が無い。私を含めて六人の女中は家の外に出る事を固く禁ぜられてゐるので、そして粗末な食事を拵へるより他には為る事もないので、何時も暇だ。無論燭を點けてする程のことは何も無い。日も落ち切つて、髪の毛ほどの星明りさへ差しはしない此の部屋が真ツ暗がりになると廊下のはうから床板の軋む音がする。程無く唐紙をほとほとゝ敲く音もする。あゝ、けふも来たか。私が戸の間ぢかで眠らされるのは主人の夜伽を勤めさせられるからなのである。するすると唐紙を引くと主人が居た。だらしなくも著物の前をはだけ、帯もたゞ腰の周りになんとか廻してある丈、耄碌、何とも醜い御仁。私が此の家に奉公にあがる前には、今私の傍で全く息もせずに眠つてゐる、そして時折不意に思出したやうに凄まじい鼾をする、色白で丸ぽちやな、丸で一月水に漬けたお多福を物見櫓から叩き落として更に五人がゝりで踏ンづけたやうな顔をした女が夜伽をしてゐたのである。成程、仲々お似合ひの番ひだ。その侭ゐりや良かつたのに、私は疾くに最後の厄の過ぎたへちやむくれの後釜に据ゑられて了つたのだ。たまつたものぢやない。主人は筆を取出した。勿論もう年で陰茎萎え果てゝ勃ちはせぬのだ。そして涎したしる薄くあやふやに開いた己が口に其の筆を突立て、ちゆぼちゆぼと唾きを含ませる。一本残らず歯の抜落ちて了うた口でおゝううおうと呻き乍ら、主人は自分の口から抜いた筆を私の脣に差込む。何時ものことだのに私は亦歯を食ひしばる事もせず易々と筆を銜へて了ふ。初め、ほんの一瞬丈甘美な味はひが啌中に拡がつて私の脆い決意を蕩してしまふのだ。先は地獄だ。陶然(うつとり)と上気した私の顔容を眼にすると主人はうひやらけたけたと嗤つて顔ぢゆうの穴といふ穴に筆を挿入れんとする。やがて、首筋をつたつて腋の下に差掛つた辺りで私の膚は皆粟立ち、脊梁には悪寒が上下し、爪尖から蟻走感が蟻の戸渡りへと向つて神経を伝ふ。主人の筆は私の乳首をかろくもてあそんだ後、すうと臍わたりを掠めて女陰へと臻らんとする。同室の三婆たちは眼醒めてゐる。歯と歯のあひだが大きく空いた見苦しい口元からげらげらと笑ひ声をあげ乍ら、互ひのでつぷりと脹れあがつた布袋腹を鼓き合つて、妙な拍子を取つてゐる。その音頭に合はせて主人の筆はずンと私の女陰を突刺しては又ひようと退いて前後々々の運動を続けつつ滅茶苦茶に掻廻してゐる。ぞりぞりとした毛の感触が非常に気持悪い。私が咽の奥処からうーといふ音の塊を吐きだしさうになる比ほひ、主人は筆の尻を外して筒として、私の子宮にぬつたりと重い呼気を吹込み始める。三婆たちは、すると「こーつぼこつぼ、子ー壷子壷」と囃し声を掛出す。ぷうぷうぷうぷう。ふしゆるゝるゝ、と何うにもやり切れぬ情けない音が私の尻から響いて渾てはお開きになる。是が毎晩々々繰返される。而も、冷静をよそほつて書いて来たけれ共、実は私は此の間中ずつと如何にも感じてゐるかのやうな嬌声をあげてゐるのだ。近所の男共が此の家の崩折れた土塀の周りに群がつて耳欹てゝゐる。それなのに、さも恍惚境にあるかの如き婬声で喘ぐのを廃められない。だつて、お給金の査定の足しになるかも知れないから。どうしよう。私まだ十七なのに。(畢)