詠題掌編

『いつまでも愛される権利なんてあるかしら』

なに? 惚れたの? あたしに? やだ 年甲斐もなく? ウソ ね、嘘でしよお? ほんとなの? やだ、こくんつて頷かないでよいぢましいから 本気なの? そおぉ それで 附合つて欲しい? なに? おぢいちやんがあたしが好きだからつてあたしがおぢいちやんが好きとは限らないでしよ、事実おぢいちやんのことそんな風に意識したことつて無かつたし つてゆーか普通ないでしよ 莫迦 そんなまとはりつかないでよこの耄碌ぢゞい 渡したいものがある? 開けて可い ナニコレ こんなもんであたしが喜ぶと思つたの? 「礼と云ひ礼と云ふ、玉帛を云はんや」? なにそれ? 仔牛? あゝ孔子 でも何言つてんだか分んないよ 贈り物は心が大事? それを態々難しく云つたつてわけ? 莫迦みたい それに心はそりや大事としてもよ、それを表現するにはある程度のソフィスティケイションが必要なんぢやない? それがそれこそ「礼」つてことぢやないかな? どしたの? ソフィスティケイションが何だか分らない? 「洗煉」かなぁ おぢいちやんだって手編みのニットなんか貰ひたくないでしよ? 慾しいの? ダメだ、あたしとは附合へないよ どこに手ぇ突つこんでんだよ、年とつて動作がトロいくせに訳わかねえことしやあがる 「恋愛は唯性慾の詩的表現を受けたものである」? それで? 続きにちやんと「少くとも詩的表現を受けない性慾は恋愛と呼ぶに價しない」つて、芥川は書いてるだろ 自分の都合のいいやうに捩ぢ曲げんなよ だからてめえみたいなくたばりぞこなひの老耄はタチが悪りいんだよ さつさと楢山へ、あ……ゴメンちよつときついこと言つちやつた アハ   キスなら可いよ         へたくそ      (畢)