お題小説

『當世女庭訓』

「以上、女性の性的快楽は断じて男性を必要として居ないのです。御清聴有難う厶いました」壇上の女がさう云つて、椅子に着いた女どもは一様に足をしだらなく開きスカアトを捲り下穿きを摺下げて自慰を始め、フェミニスム学習会は実践へと移行した。けして甘美とは言ひ難いうめきあへぎの声が不断にあがるなか、耳障りな、くゞもったやうな機械音が鳴つてゐた。其に気づいた壇上の講師は、「そこツ、バイブレイタアの使用を廃めなさい。膣内に男性器を挿入する事で快感が得られるとするのは男性が作成し続けてきたポルノグラフィによる幻想だと説明した筈です。吾々にはクリトリスだけで充分なのですツ!」と蛮声を轟かせた。だが、有閑婦人ばかりの集ふ斯様の聴衆には珍しく若い女は、それも耳に這入らぬげに「あゝん、あアン」と頬を上気させ全身を揺さぶるばかり。「廃めなさいツ、やめなさいツ」と講師は繰返す。一同は今や、手淫も、憚つたやうな、それでゐて無遠慮な陰口を取交す例のどよもしも止め、水をうつたやうに静まりかへつて成行を見凝めてゐた。「いくうツ」と言放つて女は果て、憮然とした面持で講師は立去つた。その後に展開されたたつた一本のバイブレイタアを相争つての化粧塗りたくつた白豚どもの地獄絵図、汗唾泪洟淫水にまみれての上へ下への大騒擾、仕舞ひには近々互ひに掻抱いて性器を舐合ひ或いは口を吸ひ股倉を擦り合つての乱痴気騒ぎに恐れをなした若い娘は裸の侭、表に駈けだした。(畢)