お題小説

『ボンクラの賦』

さても、聖女テレジアがその敬虔なる祈りもて法悦を得る。巴比倫(バビロン)の大淫婦其の猥らなる自慰により恍惚境に達す。いづれが聖にしていづれが邪(よこしま)なるか。なんぴとたりとも答ふべからず。なんとなれば、両者ともに快感司る脳内物質の働きによるものなればなり、と……

人の言ふ、ジャンヌ・ダークは聖女よと。仏蘭西救へと神の言ふ、その命受けし戦士よと。哀れや乙女姦佞の、司教らにより焼き殺さるゝ。オルレアンの娘は純潔ぢや、と世の人のいふ。その気高さはすつくと立つ一輪の白百合。かの、凶悪無残のジル・ド・レエもこの未通女(おとめ)を崇拝した。これみな人の、言ふところ……

それは或る夜、だしぬけにギョーム・ド・レセールを襲つた。彼は乙女(ラ・ピュセル)を異端者として誅することに賛同せし三十八名の一人。内がはに声がする。「お久しぶり、ギョーム殿」「その声はダーク。ジャンヌ・ダーク」「まあ、覚えてゐらして下さつたの、嬉しい」「う、失せよ。なにゆゑ焚如の刑うけし爾(なんじ)の声がする」「今日はお礼にあがりました」「礼だと」「えゝ、けれどわたくしはもはや身は滅し差し上げるものはありませぬ。そこで快楽を差し上げませう」する、とズボンが脱げて、手が摩羅に添ふ。「ドン・レミで救国の神託受けてより、私は常に快楽(けらく)の内にありました。重き鎧まとふて馬にうち跨がり、絶えざる矢玉の下かいくゞつてゐたあの時も、わたくしは神と伴にありました」手は摩羅をしごく。「いつも大きな悦びにいだかれてをりました。けれどあなたは神の声聞くこと叶ひませぬ。ですからかうして、」気が漲り、須臾ののち白濁の液が迸り出る。滔々乎として止まぬ。気持ちの良さは言ふべからず。永く、永く。ギョームは次の日腎虚で死んだ。(畢)