お題小説

『からごゝろ』

支那の夜。それはまるで静物画だつた、もつとも戯画だつたけれど。男の子と女の子がセックスをしてゐる。男の子は勃起した性器を挿入してるけど凝と動かない。女の子のはうも、「気持いいのかもしれないけど、でもなんか違ふ」といふやうな顔をして、やつぱり動かない。体位は「女をして正しく臥し、その脚を曲げ、尻の下に迫らしむ」といふかたち。房中術ではこの体位を「道体」と言ふ。なんでも「男が九九の数を行へば、男の骨を実入らしむるのみならず、女陰の臭きを治する」といふ効果があるらしい。「房中術」とは何かと言ふと、端折つて言へば「セックスして仙人になる方法」のことだ。なかなか虫のいい話だと思ふけどさういふもんなんだからしやうがない。はじめの頃、仙人になるには「金丹」といふものを服まなければダメだ、つてことになつて居た。ところがこの「金丹」といふものは水銀だとか硫黄だとかから作ることになつてゐて、はつきり言へば躰にいいもんぢやない。そこでそのうちに、体内で丹を作る「内丹」=体のなかにある「気」を練つて仙人になるといふことになつてきた。この為、男女陰陽の気を交へること、ありていに云へばセックスすることが要請される。但し、気は体内で練るものだから放出してはいけない。つまり男は「射精してはいけない」といふ事になつた。「淫して洩らさず」「射精せずに快感だけを得る」といふ考への源は実にここにある。この男の子は初体験で、いきなりそれをやらうとしてゐるといふ訳。女の子は「莫迦莫迦しい」つて思ひ乍ら、でもまあ好きな子がやることだからつて附合つてる。附合つてるけど「なんだかなァ」つて思つてる。でももう男の子は我慢も限界で遂に射精して了つた。そして「ばかァ」と言つて泣きだした。女の子はそれを見て「あ、可愛い」つて、さう思つた。(畢)